ニュースの概要
米国の小売店で売られたノンアルコール飲料の売上が、2026年6月27日までの52週間で10億8,000万ドルとなり、10億ドルの大台を超えた。前年の同じ期間と比べて14.6%の増加である。中身を見ると、アルコール度数ゼロのビールが全体の80.8%を占め、売上は12.2%伸びた。ノンアルコールのスピリッツ(=蒸留酒の代用品)や、開けてすぐ飲めるRTDは、合わせて7.5%と小さい。数字は飲食店ではなく、スーパーや酒販店など店外で買われた分である。市場の大半をビールが握る構図の中で、残りの分野がどこまで育つかが次の焦点になる。
引用元: 米国のノンアルコール飲料小売市場、売上高10億ドルを突破(The Spirits Business)
分析・見解
ビール8割の市場で、全体より遅い伸びが示すもの
10億8,000万ドルのうち、ゼロ度ビールが占める額はおよそ8億7,000万ドルになる。売上は12.2%増えたが、市場全体の14.6%増には届いていない。つまり、残りの分野は平均より速く伸びたことになる。前年の数字から逆算すると、ビール以外は2割台半ばの伸びだったと見られる。これは私の試算にすぎないが、市場の重心がゆっくり動き始めた兆しとして読める。
ビールが大きすぎるため、全体の伸びはビールの調子にほぼ左右される。それでも周辺分野が先に走る形は、成熟前の市場でよく見られる。成熟した酒類の多くが1桁以下の伸びにとどまることを思えば、14.6%という数字は際立っている。
「ビールの代わり」から「飲み物の選択肢」へ
ゼロ度ビールが強いのは、味の目標がはっきりしているからだ。いつものビールに近ければ合格で、買う側も迷わない。売り場でも、ビール棚の延長に置ける。
一方、ノンアルコールのスピリッツは、何と比べて良し悪しを決めるかが難しい。ジンやウイスキーの代用として売られるが、実際はソーダで割ったり、カクテルの材料にしたりと使い方が広い。そのため、売る側が使い方まで伝える手間を負う。日本でもノンアルコールビールが先に定着し、ほかの分野が遅れて育った経緯がある。米国は同じ道をたどっているように見える。
7.5%という小ささは、弱さではなく入り口の狭さ
売上でみれば、スピリッツとRTD(=開けてすぐ飲める缶やボトルの飲料)は合計で約8,100万ドルにすぎない。ただ、小さいことは弱さを意味しない。ここは、まだ入り口が狭い分野だ。
お酒を控える人は、味のためだけでなく、場の雰囲気のために一杯を選ぶことが多い。乾杯の一杯、友人を招く夜の一杯などだ。そうした場面は、ビールよりカクテルのほうが満たしやすい。低アルコールのワインやビールが先に広がり、次に雰囲気で選ぶ商品が伸びる。私はその順番を見ている。
店外での売上が、家庭での定着を映している
この数字は店外、つまり小売店で買われた分である。飲食店のメニューに先に載り、あとから家庭に降りてくる流れは、クラフトビールでも見られた。ハードセルツァー(=炭酸入りの甘い低アルコール飲料)は数年で棚を一気に広げたが、その後に勢いが鈍った。ノンアルコールは健康志向という長く続く動機があり、流行だけで終わる可能性は低い。
ただし、味に飽きられれば購入回数は落ちる。初回の購入数ではなく、二回目以降の購入率を見ないと、本当の定着は測れない。また、店は売れない商品を数カ月で棚から外す。売上が積み上がるまでの我慢が、メーカーにも店にも必要になる。
ビジネスへの影響
売り場は、ビール棚の隣から広げていく
小売や卸の担当者は、ゼロ度ビールを土台にしつつ、ほかの分野を試す段階に入っている。ビール棚の隣に、ノンアルコールのスピリッツや缶カクテルを少量並べ、売れ方を週単位で見るとよい。売上の8割がビールなので、棚の大半をビールに割く判断は正しい。ただ、伸びは残りの分野のほうが速い。まず2〜3品に絞り、回転が良ければ増やす。この順番なら、在庫の損失を抑えられる。
メーカーは味に加えて使い方も商品にする
ノンアルコールのスピリッツは、瓶を渡すだけでは使い方が伝わらない。ラベルやQRコードにレシピを載せる、ソーダやトニックとのセット売りにする、といった工夫が効く。缶入りのRTDは、手間なく飲めること自体が価値になる。パーティー用の詰め合わせや、仕事帰りに一本だけ買える小容量など、場面ごとに形を変えたい。日本の飲料メーカーにとっても、国内のノンアルコールビールで磨いた味づくりの技術は、輸出や提携の材料になりうる。
数字を読むときに外せない二つの注意点
一つめは、売上高の伸びに、値上げや取扱店舗の増加が含まれる点である。販売数量の伸びとは別に確認したい。二つめは、この調査が店外の売上に限られる点だ。飲食店での提供量は含まれないため、実際の市場は数字より大きい可能性がある。自社の計画に使うなら、市場全体の数字だけで判断せず、取引先での回転率を軸にする。そのうえで、四半期ごとにカテゴリー別の構成比を見直すと、変化の兆しを早く拾える。
