製法の大きな分かれ道: 造ってから取る、造らずに仕上げる
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製法の説明は、技術解説の資料、各社の公表内容、報道で確認できた範囲にとどめています。各社が実際に採用している工程の詳細は、公式サイトでの説明が確認できたものだけを記載し、確認できないものは「公式サイト参照」としています。
ノンアルコールのワインやビールを造る方法は、突き詰めると三つの考え方に分けられます。一つ目は、通常のワインやビールをいったん造り、そこからアルコールを取り除く「脱アルコール」です。二つ目は、アルコールをそもそも作らない、あるいはごくわずかしか作らないように、原料の選び方や発酵の止め方を工夫する方法です。三つ目は、果汁、麦汁、抽出液、香料、酸味料などを調合して、ワインやビールらしい味わいを組み立てる方法です。
この三つは排他的なものではなく、組み合わせて使われることもあります。たとえば、脱アルコールで得た液体に、回収した香り成分を戻したり、別の原料を加えて味を調整したりする場合があります。逆に、調合で組み立てる場合でも、香味の設計には発酵させた原料を一部使うことがあります。製法の名前だけで味や品質が決まるわけではなく、それぞれに長所と難しさがあるというのが、技術解説で共通して語られている点です。
製法を知る意味は、商品を比べる際に「何を基準に見るのか」が分かることにあります。たとえば、ワインの風味に近づけたいなら、発酵由来の複雑さをどう残すか。ビールの苦みや泡立ちを再現したいなら、麦汁由来の成分をどう扱うか。低糖質や低カロリーを重視するなら、糖分をどう抑えるか。それぞれの目的に応じて、製法の選び方が変わります。以降の章で、代表的な技術を順に見ていきます。
真空低温蒸留: 沸点を下げてアルコールを取り除く
脱アルコールで広く使われる方法の一つが、減圧下で行う蒸留、いわゆる真空蒸留です。エタノールは水より低い温度で沸騰するため、加熱するとアルコールが先に気化します。ただし、通常の気圧で加熱すると、ワインやビールの繊細な香りが飛んだり、熱で味が変わったりします。そこで、装置の内部を減圧して沸点を下げ、低い温度でアルコールを気化させて取り除く方法が使われています。
英国の工学系団体が公開している技術解説は、減圧によってエタノールの沸点が下がるため、香気成分が多く残ったままアルコールだけを先に気化させられると説明しています。ワインの脱アルコールでは、この方法が特に普及しているとされています。一方で、蒸留などの熱を使う方法は、香りの損失や味の変化を招きやすいという課題も指摘されています。ビールの場合は、熱でタンパク質が変性し、HMF(ヒドロキシメチルフルフラール)という成分が増えるという報告があると紹介されています。
この課題に対して、蒸留の前後に香り成分を別に集める工程を設ける工夫があります。取り除いた蒸気の中には、アルコールだけでなく、香りの成分も含まれます。香りを回収して、脱アルコール後の液体に戻せば、風味を補うことができます。香りの回収と再添加は、次の章で詳しく扱います。
真空蒸留の長所は、仕組みが理解しやすく、アルコールを低い数値まで下げやすい点にあります。難しさは、装置のコストや処理に必要なエネルギー、そして繊細な香りの扱いです。どの程度までアルコールを下げられるか、どのような温度と圧力で運転しているかは、メーカーごとに異なり、多くは詳細が公開されていません。公式サイトで確認できない項目は、推測せず「公式サイト参照」とする姿勢が、レポートを読む上でも大切です。
スピニングコーンカラム: 薄い膜にして、香りとアルコールを分ける
スピニングコーン(回転円錐)カラムは、ワインの脱アルコールで知られる装置です。ステンレス製の塔の中に、回転する円錐と固定された円錐を交互に並べ、減圧下で液体を薄い膜にして流します。下から蒸気を入れると、低い温度でアルコールと香りを気化させることができる仕組みです。香りを残しつつ、製品の蒸発量を従来の蒸発器より抑えられると説明されています。
この装置の特徴は、液体を香り、本体(ボディ)、アルコールの層に分けて扱える点です。たとえば、まず低温で香りの成分を取り出して別に保管し、次にアルコールを除いたあと、保管していた香りを戻す、という工程を組むことができます。ニュージーランドのワイナリー Giesen は、この装置でワインを香り、ボディ、アルコールに分けて、アルコールだけを取り除いていると紹介されています。
ただし、装置を導入できるのは、一定の設備投資ができる事業者に限られます。小規模なワイナリーや輸入元が自社で行うのではなく、専門の受託業者に脱アルコールを依頼する例もあります。受託を使う場合でも、元になるワインの品質が出来上がりに大きく影響するため、原料の選定が重要だとされています。
この章の要点
スピニングコーンは、薄い膜にした液体から低温で香りとアルコールを分ける装置です。香りを先に回収して後から戻す工程を組みやすい点が、真空蒸留との違いとして説明されています。
逆浸透膜と透析: 膜でアルコールを分ける
熱を使わない脱アルコールの方法として、膜を使うものがあります。逆浸透(RO)膜は、水やアルコールのような小さな分子を通し、香味のもとになる大きな分子を通さない性質を利用します。圧力をかけて液体を膜に通すと、水とアルコールが分かれ、香味成分は濃縮された状態で残ります。分けた水とアルコールのうち、アルコールを除いた水を戻すことで、アルコール分の低い液体が得られます。
技術解説では、逆浸透膜はビールの脱アルコールでより多く使われているとされています。ビールは、ワインに比べて、もともと含まれるアルコールが少なく、水分の比率が高いことが理由の一つと考えられます。装置メーカーのGEAは、熱で抽出すると味が壊れるとして、逆浸透法を推奨する事例を公開しています。ただしこれは装置メーカーの見解であり、実際の品質は原料や工程全体の設計に左右されます。
透析法は、膜の両側の濃度差を利用してアルコールを移動させる方法です。膜の片側に脱アルコールしたい液体を、反対側に水を流すと、アルコールが濃度の高いほうから低いほうへ移動し、水の側へ抜けていきます。穏やかな条件で処理できる一方で、処理に時間がかかることや、水の使用量が多いことが課題になります。いずれの方法も、特許が出願されている技術が多く、各社が工程を工夫して使い分けています。
香味成分の回収と再添加
脱アルコールで難しいのは、アルコールを取り除くときに、香りや味の成分も一緒に失われやすいことです。ワインやビールの香りは、数百種類ともいわれる成分が組み合わさってできています。アルコールは、それ自体の味に加え、香りを運ぶ役割や、飲んだときの厚み、のどごしにも関わっています。アルコールが抜けると、味が薄く、酸味や甘味が目立つ仕上がりになりやすいことが知られています。
そこで、各社は香りの回収と再添加を工夫しています。蒸留や膜の工程で出てくる香りの成分を集めて保管し、アルコールを除いたあとの液体に戻す方法です。このほか、別の原料から抽出した香り成分、ホップ、果汁、茶、スパイスなどを加えて、足りない厚みや複雑さを補う方法もあります。ビールテイストの飲料では、麦芽やホップの使い方、炭酸ガスの量、苦味成分の調整が全体の印象を左右します。
キリンの「グリーンズフリー」は、香料と人工甘味料を使わずに麦やホップの香りを引き出した製法を特徴として発表しています。一方で、香料を使うことは製法として否定されるものではなく、食品表示のルールに従って原材料に表示されます。購入前には、パッケージの原材料表示で、香料の有無や使われている原料を確認できます。何を使うかは製法の選択であり、優劣を示すものではありません。
発酵を抑える、発酵させない: アルコールを作らない設計
脱アルコールに対して、アルコールを作らない方向の製法もあります。ワインの場合、ブドウ果汁の糖を酵母がアルコールに変えるのが発酵ですから、この過程を抑えれば、アルコールのほとんどない飲料ができます。海外の業界記事によると、フランスの Opia は、ブドウを収穫して破砕し、果汁を取り出したあと、発酵させない製法をとっています。タンクの温度管理で、酵母が糖をアルコールに変えることを防ぎ、保存料を使わずに殺菌も行うと紹介されています。
この方法では、ワインを造ってから取り除くのではなく、最初から発酵を起こさせないため、脱アルコールの工程に伴う香りの損失は避けられます。一方で、糖分が残るため、甘味が強く感じられる傾向があります。酸味や渋み、苦味などで甘さを調整し、食事に合う味わいに仕上げることが課題になります。
ビールテイストの飲料でも、麦汁を作ったあと発酵させずに仕上げる方法や、発酵を途中で止める方法が使われます。発酵を短時間にとどめるために、酵母の種類を選んだり、温度や時間を管理したりする工夫が知られています。発酵を止めた飲料は、微量のアルコールを含む場合があります。そのため、パッケージのアルコール分の表示と、各社の説明を確認する必要があります。
メルシャンの「贅沢ワイン気分 スパークリング」は、特許技術の「特殊ブドウ果汁」を使い、ワインらしい余韻や複雑味を目指した商品と説明されています。特殊ブドウ果汁の詳しい工程は公開情報の範囲では確認できず、「公式サイト参照」としますが、原料の設計で味わいを組み立てる方向の例として参考になります。
0.00%と0.5%未満の違い、各国の基準
ノンアルコールという表示の中には、実際のアルコール分に幅があります。日本では、前述のとおり、酒税法の酒類はアルコール分1度以上の飲料ですので、1度未満の飲料は酒類にあたりません。そのなかで、各社の商品ページでは、アルコール分が0.00%であることを明示している商品と、0.5%のように微量のアルコールを含む商品が区別されています。たとえばサントリーの公式案内は、「のんある酒場」について、アルコール分が0.00%であると説明しています。
英国の政府ガイダンスは、アルコールを除去した飲料に「alcohol free」と表示できるのは、アルコール分が0.05%以下の場合としており、ABV(容量比のアルコール分)の表示も求めています。0.05%を超え0.5%以下の飲料は「de-alcoholised」の区分とされ、ワインでは0.5%以下のものがこの呼び方になると説明されています。この表示は法令ではなく自主的な任意のガイダンスで、「alcohol free」の上限を0.5%に変える案が協議された経緯もあります。
日本と英国のこの違いは、製法の説明にも影響します。脱アルコールの技術では、アルコールを完全にゼロにするのは難しく、微量が残る場合があります。そのため、日本で0.00%と表示するには、アルコール分を測定の下限以下に管理する必要があります。逆に、0.5%以下で良いとする基準なら、工程の設計はやや緩やかにできます。どの数値を目標にするかは、製法の選択と深く結びついています。
消費者としては、用途に応じて確認する項目が変わります。20歳未満の方が誤って飲まないようにすること、運転や服薬の前に飲むこと、妊娠中や授乳中に飲むことなど、場面ごとに判断が必要です。アルコール分が0.00%の商品であっても、20歳以上の方を想定した商品である旨がパッケージや公式サイトで案内されている場合があります。表示と案内を確認することが基本です。
製法をめぐる課題: 味、コスト、表示
ノンアルコールの製法には、共通する課題がいくつかあります。第一は味わいの再現です。アルコール分が低いと、液体の厚みが減り、酸味や苦味が目立つ傾向があります。糖分を加えて補えば甘くなりすぎ、果汁や茶、スパイスを使えば、元の飲料とは別の個性になります。各社は、元の飲料に近づけるのか、別のカテゴリとして独自の価値を提案するのか、方向性を選んでいます。
第二はコストです。脱アルコールの設備は、真空蒸留装置、スピニングコーン、逆浸透膜の設備のいずれも、導入と運転に一定の費用がかかります。小規模な事業者は、設備を持たず、受託業者や輸入元を通じて商品を扱うことも多く、それが価格に反映される場合があります。商品の価格は事業者が決めるもので、当サイトでは確認できた公表価格のみを扱います。
第三は表示とコミュニケーションです。ノンアルコールという言葉から、完全にアルコールを含まないと受け取る人もいれば、微量は含むと理解している人もいます。パッケージのアルコール分の数値、20歳以上を想定した旨、純アルコール量の表示など、購入者が判断できる情報を丁寧に出すことが、業界全体の課題とされています。アサヒビールが純アルコール量の表示を広げているのは、その一例です。
一次情報の確認先
- 脱アルコールの方法に関する技術解説: Ingenia: How is non-alcoholic beer and wine made?
- Opia の製法に関する記事: Alcohol-free World
- 英国の低アルコール表示ガイダンスの協議: GOV.UK
- キリンホールディングス グリーンズフリー発表: 2020年4月のニュースリリース
- サントリーのノンアルコール飲料に関する案内: お客様センターのFAQ
- 国税庁(酒税に関する情報): 酒税のページ
