ニュースの概要
調査会社のFortune Business Insightsが、ノンアルコール飲料の市場規模やシェア、2034年までの成長見通しをまとめた市場レポートを公表した。ノンアルコールビール風の飲料に加え、炭酸飲料、茶、機能性飲料など幅広い品目を含む市場である。この分野の成長要因としては、健康への関心の高まり、飲酒量を減らす人の増加、糖分を抑えた飲料への需要などが挙げられる。スーパーやコンビニに加えて、通販や飲食店でも取り扱いが増え、手に取る機会が広がっている。本稿ではレポート個別の数字ではなく、この拡大がどのような仕組みから生まれているのかを、日本の商品や制度の動きと重ねて読み解く。
引用元: ノンアルコール飲料市場規模、シェア、成長、2034(Fortune Business Insights)
分析・見解
「お酒の代わり」から「選んで飲むもの」への変化
ノンアルコール飲料は長い間、運転や体調の都合でお酒を我慢するときの代用品だった。今は事情が違う。お酒を飲める人が、あえてこちらを選ぶ場面が増えている。欧米では、お酒を飲まない生活を試す「ソバーキュリアス(=あえて飲まない選択)」が若い世代に広がった。日本でも2024年に国が飲酒に関するガイドラインを示し、飲む量を意識する流れが強まった。
理由は健康だけではない。翌朝の仕事、睡眠の質、家計、運動の習慣など、暮らしを整える手段として選ばれている。一時的な流行ではなく習慣として積み上がりやすいため、2034年という長い予測期間にも説得力が生まれる。
味の進化が「我慢の飲み物」の印象を変えた
転機は味の改善である。国内では2009年にサントリーが「オールフリー」を発売し、2019年にはアサヒの「ドライゼロ」やキリンの「零ICHI」が続いた。いずれもアルコール分0.00%で、ビールに近い満足感を狙った商品だ。海外ではハイネケンの「0.0」やギネスの無アルコール版が、既存ブランドの知名度をそのまま武器にして棚を確保した。
なじみのある銘柄の味を再現するほうが、新しい味をゼロから作るより試してもらいやすい。醸造後にアルコールだけを抜く技術(=脱アルコール)の進歩も、風味の再現度を押し上げている。
競争は味だけでなく、棚と飲む場面で決まる
市場が大きくなれば、参入者も増える。大手の酒類メーカーに加え、清涼飲料、茶、コーヒー、新興ブランドが同じ棚に並ぶ。差がつくのは味だけではない。食事中、会食、昼休み、運動後など、どの場面で手に取ってもらうかの提案が勝負になる。
飲食店の対応も重要だ。ノンアルコールが一種類しかない店では、飲まない客の注文を取りこぼす。ビール一杯とソフトドリンク一杯の単価差が、そのまま客単価の差になるからだ。
年平均の成長率だけでは見えない、地域と定義の差
市場予測の数字は、地域や商品ごとの違いを一つにならした平均である。宗教上の理由でお酒を控える地域では、ノンアルコール飲料は以前から大きな市場だった。一方、日本や欧州で伸びているのは、嗜好や価値観の変化による需要である。同じ「成長」でも、中身はまるで違う。
さらに、ノンアルコールという言葉の範囲も報告書ごとに異なる。ノンアルビールだけを数えるのか、炭酸水や茶、機能性飲料まで含めるのか。範囲が広いほど数字は大きく見える。読むときは、誰が何のために買う飲み物なのかまで分けて考えたい。
ビジネスへの影響
飲料メーカーは「ゼロ」の中身を使い分ける
新商品を考えるなら、まず「誰の、どの場面のゼロか」を決めたい。仕事前の昼、運動後、家での夕食、会食では、求める満足感が違う。ビールの再現度を競う道もあれば、無糖の炭酸や茶のように、お酒の味を目指さない道もある。前者は既存ブランドの知名度が武器になり、後者は新規参入でも勝負しやすい。自社の強みがどちらにあるかで、開発費と販促費の配分は大きく変わる。
アルコール分0.00%と1%未満では、表示や売り場での扱いも異なる。規格を最初に固めておくと、あとの手戻りが減る。
飲食店は一杯目の選択肢と価格を見直す
飲食店では、ノンアルコールを「おまけ」ではなく「一杯目の選択肢」として扱うことを勧める。メニューの目立つ位置に置き、ビール風、ワイン風、ノンアルコールのカクテルを揃える。缶や瓶でも、グラスや氷、飾りを整えれば特別感が出る。
価格は、ビールより極端に安くしないことが肝心だ。満足度が高ければ近い価格でも注文は入り、客単価の落ち込みを抑えられる。まずは一店舗、一か月だけ注文比率を記録するところから始めたい。
市場予測を計画に使う前に確認したい三点
市場予測を事業計画に使うときは、三つを確認したい。一つ目は対象範囲で、どの飲料までが数えられているか。二つ目は地域で、日本の実態に合う数字か。三つ目は前提で、規制や原材料価格の変化が織り込まれているか。
大きな数字は、社内で投資を説明する材料になる。ただし最終判断は、自社の顧客への小さな試験販売の結果を優先すべきだ。
